AIDの問題点①「告知」


AIDで生まれた当事者から見る、AIDの様々な問題点。ここでは、告知についてお伝えします。


■告知■

 AIDの問題点の一つに、「親が子どもにAIDで生まれてきた事実を隠す」=「告知をしない」ということがあげられます。

   

 70年以上の歴史があるにもかかわらず、提供者は完全に匿名であり、親は周囲にも当事者となった子どもにも決して告げることはありませんでした。そのために自分がこの生殖技術で生まれたのだという事実を知る当事者がほとんどいません。現在声をあげ始めているのは、そのほとんどが、親の病気や死、親の離婚、偶然にして血液検査などで自分の出生を知った例ばかりです。

 『親』は、まぎれもなく育ててくれている人ですが、子どもにとって自分のルーツはとても大切なことです。そして、おそらく事実を知らされないという事と同じくらい、信じてきた親が嘘をついていたという事が大きなダメージとなりうるのです。親との関係がうまくいってなければ(やっぱりそういうことだったのか。)と思うでしょうし、親と親密な関係が築けていたとしたら、それはそれで(どうして話してくれなかったのか。)とショックを受けるでしょう。当事者は子どもの利益として自分の出生については知らされる必要がありますし、知らない方がよい出自というのでは(隠されなければならない恥ずかしい子どもなのか)と自分の存在に悩みます。

 AIDで生まれたという事実を背負った子どもをありのまま受けとめることが大切です。「AIDによって生まれたから、お父さんとは血は繋がっていないけれど私達は親子なんだよ。かわいい○○ちゃんに会えて嬉しいよ。」と言われたなら、どんなにか子どもは自信を持ち喜びに溢れるでしょう。

 家族関係がうまくいっているなか、あえて告知する必要があるのかという意見も聞きます。

 

 しかし、夫婦も親子もうまくいっているように見えていても、何らかの違和感を覚え(母親が浮気をして生まれた子どもなのかもしれない。)(戸籍には実子だけれどもこっそりもらわれてきたのかもしれない。)など親には言わずいろいろな可能性を疑っている子どもいることが調査により明らかになってきました。

 

 そしてその当事者の割合は決して少なくありません。何も起こっていないように見えてもそれでも告知は必要なのです。(※ビル・コードレイ氏の調査による)

 

※ビル・コードレイ氏「非配偶者間人工授精で生まれた人々の体験についての意識調査」半数以上が事実を知る前に何か隠されていると感じ、45%は「父親と遺伝的に繋がりがないのではないか」と疑っていました。

 

 

■告知を考える

 

 発達障害をもつお子さんを育てているお友達がいます。

彼女曰く、

「親になるということは腹をくくるっていうことね!」

 

 大半の人は、子どもを持つ時それほど深くは考えないのではないでしょうか。

しかし実際に親になってみると…

思ってもみなかった問題が見えてきたり、理不尽な現実に戸惑ったりします。

親になるということはどんな子どもであろうと、どんなことが起ころうと受け入れて進まなければならなくなります。

 

 AIDで子どもを持つのならば、

生まれてきた子どもに告知をするかどうかで悩むのではなく、どう伝えていくかを考えていくことが望ましいことです。

ごまかしのない親子関係が大切なのです。

それが「腹をくくる」ということになるのではと考えます。

 

 

■子どもにとっての必要な人生とするために

 

 生まれを肯定するために、自分の存在を否定しないために、できるだけ早く告知をしてほしいと思います。嘘の時間が多いほど、自分を再構築する作業は難しくなります。進路を考える前に、結婚や子どもをもつことで多くの人を巻き込んでしまう前に、人生の大きな決断をする前に告知をしてほしいと思います。

 

 自分がどうして今ここにいるのかと自問する時、生まれる理由としての事実を知りたい(出自を知りたい)と思うものなのです。ここで大切なことは「血の繋がりはないけれど、私たちはまぎれもなく親子である」と両親、特に父親からの愛情が伝わるなかでの告知です。ぜひ親子が幸せな時に告知を行う準備をしてほしいと思います。

 

 

 そのことをこの生殖技術に関わる医療関係者と、希望する親(または既に親になっている人)生まれた人は知っていなければなりません。

共感できなくても、理解できなくても、このことを知っていなければなりません。

 

 親の人生に子どもが必要で苦しい思いをしたのと同様に、生まれた子どもにもその人の必要な人生があるということを知ってほしいと思います。

 

 

■嘘のない親子関係

 

 いろいろな問題があるなか、大きなわだかまりを残すのが隠し事のある家族関係です。

 

 親としては嘘をついたつもりも、騙すつもりもなかったのかもしれません。

成長した方が子どもも親の事情を理解しやすいだろういう考えがあったかもしれません。

 

 しかし、成人してからの告知はたいへん残酷です。

理解へつなげることは大切ですが、感情は頭で理解すればすむ問題ではないことを知るべきです。

子どもにとっては親の事情を理解するよりも、育ててくれる親の愛情を感じるほうが大切です。

「おとうさんとは血の繋がりはないけれど、あなたを私たちの子どもとして大切に思っている」ということを伝えることが大切なのです。

 

 また、知らない方がよいだろうと隠すのは「出自」を肯定していないからではないでしょうか。

知らない方がよいと思う人は、AIDが倫理的に許されないと心のどこかで思っているのかもしれません。

倫理的に許されないと感じてしまうままでAIDを選択していいのかなと、私は疑問に思います。