SNSによる精子取引と生殖ツーリズム

Social Media Sperm Trade and Reproductive Tourism

SNSによる精子取引と生殖ツーリズム

SNSで行われる精子取引とその問題

SNSでの精子取引とは、主にソーシャルメディアやインターネット掲示板を通じて、個人間で精子をやり取りする行為を指します。SNSによる精子取引には主に以下の4点の問題があります。

 

1. 法的リスク

日本では精子提供に関する明確な法整備が不足しており、親権や責任問題が発生する可能性がある。

 

2. 健康リスク

性感染症や遺伝的疾患のチェックが不十分な場合がある。

 

3. 道徳的・倫理的懸念

子どもの将来のアイデンティティ形成や匿名性の問題が議論されている。

 

4. 悪質な取引

提供者や希望者の間で詐欺や不適切な行為が行われるリスクもある。

 

実際に、2019年に発生し、2021年に裁判になった事例では、SNSで精子提供を受けた女性は、ドナーから「京都大卒」「配偶者がいない」「日本人である」と言われ提供を受けましたが、ドナーは実は「静岡大卒」「既婚者」「中国人である」ことがわかりました。虚偽だったことが判明した時にはすでに妊娠しており、2020年に出産しましたが、生まれた子どもは児童養護施設に預けられることになりました。

 

この事例は4番目の問題点(悪質な取引)に関わって世間で大きなニュースになりましたが、それだけでなく、SNSでの精子取引が生まれた子のアイデンティティにとって非常に重い責任を伴うものであることが露呈した事例ともなりました。

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生殖ツーリズムに潜むリスクと現状

SNSでの精子取引の他に、AIDを含む生殖医療には、生殖ツーリズムの問題もあります。生殖ツーリズム(リプロダクティブ・ツーリズム)とは、不妊治療や代理出産、精子・卵子提供などの生殖医療を目的に、自国以外の国を訪れることを指します。一般的に、生殖ツーリズムには以下のような問題点があります。

 

1. 倫理的問題

  • 搾取の懸念:経済的に困窮した女性が代理母や卵子提供者として利用される場合があり、不平等な取引となる可能性がある。
  • 子どもの権利:生まれた子どもが親や遺伝的背景を知る権利が制限される場合がある。

 

2. 法的トラブル

  • 法律の不一致:生殖医療に関する法制度が国によって異なるため、親権や国籍などの法的問題が発生することがある。 例)代理出産が合法な国で生まれた子どもが、出産国では認められても、依頼者の母国では親子関係が認められない場合がある。

 

3. 健康・安全リスク

  • 医療の質のばらつき:訪問先の医療技術や安全基準が低い場合、不妊治療や代理出産の安全性が保証されないことがある。
  • 健康被害:提供された精子・卵子や治療そのものに伴う感染症や合併症のリスクがある。

 

4. 経済的不平等

  • 格差の助長:経済的に豊かな国の人々が、途上国の代理母や提供者を利用する構図が、不平等を強調する場合がある。

 

5. 心理的影響

  • 依頼者の負担:法的・社会的なトラブルが依頼者の精神的負担につながる。
  • 代理母や子どもの心理的影響:代理母が出産後に心理的な葛藤を抱えたり、子どもが自身の出生に関する情報を知ることで混乱を感じる可能性がある。

 

6. 社会的な議論の遅れ

  • ガバナンスの欠如:国際的なルールや規制が整備されておらず、悪質な業者や不正取引が横行する可能性がある。

 

AIDだけでなく、生殖医療全般にこのような様々な問題が解決されないまま残っています。私たちを取り巻く生殖医療にこうした問題点やリスクがあることを知った上で、十分に賢明な判断が求められています。

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